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蜩(ヒグラシ)の宿─にの江大江戸人情帳─

第1章 純情恋物語編






(幸せそうな顔しやがって……全く)



幸せそうな様子の二人を見て

胸が、ギリギリと軋むように傷んだ



にの江「………お智ちゃん、ちょいと良いかい?」


お智「はい?///」



恥ずかしそうに笑いながら、お智ちゃんが顔を上げてあたしを見る

本当に

…本当に、幸せそうに笑っている



(あぁ……手遅れってやつだったかねぇ)



あたしはまた溜め息をつきながら、お智ちゃんを手招きした



にの江「ちょいと話したいコトがあるんだょ…こっちにおいで」


お智「?……はい」



小首を傾げながら、お智ちゃんが小走りにやって来る



何故か翔吾さんまでちゃっかりくっついてやって来た



にの江「……アンタは呼んでなぃよ」


翔吾「へぃ?…いや、でも…」


にの江「でもじゃあなぃよ、若旦那!何時までも油売ってないで、アンタはさっさと帰んな!」


翔吾「うぅ…解りましたよ…お智ちゃん、じゃあ、また」



あたしの剣幕に圧されて、翔吾さんが渋々頷く



お智「はい、翔吾さん。お気を付けてお帰り下さいましね?///」


翔吾「えぇ、お智ちゃんも…また、明日///」


お智「はぃ、また、明日///」


にの江「……」



しっかり手と手を取り合って、明日また逢う約束を交わすお智ちゃんと翔吾さん

また、胸がジリジリと傷む



(……また、明日……ね)



あたしはどうしようもなく傷む胸を押さえて

何度も振り向いてはお智ちゃんに手を振る翔吾さんを見送った




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