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蜩(ヒグラシ)の宿─にの江大江戸人情帳─

第1章 純情恋物語編






にの江「…そうだったんで御座いますか…」



まぁ、大方のコトは伝え聞いて知ってはいたけれど…



潤之助「…しかし」



潤之助さんは更に話を続けた



潤之助「若様は相変わらずの横暴ぶりで、不穏な空気は一向に消える気配がない

このままでは、姫は何時まで経ってもお屋敷にお戻りになることが叶わない

ならば、こんな貧乏長家に身を潜めさせる位ならいっそ、姫を安全な場所に嫁がせた方が良いのではないか

…そう、殿が仰られて…」


にの江「……で、縁談が」


潤之助「えぇ。ただ、その話が御正室方に漏れた節があって

嫁ぐと見せかけて婿を取るのではと、躍起になって姫の行方を探しているらしいのです

ですから尚の事…縁談を早々に纏めねばならないのです」









にの江「……はぁ」



あたしはまた溜め息をつくと、お寺の軒先に腰掛けた

ぼんやり辺りを見回すと、もうすっかり黄昏て、薄暗くなっていた



にの江「…ぼちぼち帰らないとねぇ…

…夫婦そろってフウテンじゃあ、シャレになんなぃしねぇ…」


「にの江姉さん!」


にの江「ん?」



そろそろ帰ろうかと腰を上げたら、明るく弾んだ声に呼び止められた


見ると、お智ちゃんが嬉しそうに手をブンブン振り回している

その隣には、翔吾さんが、気恥ずかしそうに立っていた



にの江「 なんだぃなんだぃお智ちゃん。

こんな時分まで逢い引きかぃ?」


お智「あ、逢い引きだなんて、そんな////」



あたしの軽口を聞いて、途端に真っ赤になって俯くお智ちゃん

翔吾さんはそんなお智ちゃんの事を、愛おしそうに見つめていた




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