第1章 眠り姫
「話を逸らすが、主に聞きたいことがあるのだが」
「何かしら」
「主は、名前で呼ばれるのは嫌なのか?」
正直、主のことは知らないことが多い。
知っているのは、曰く付きの霊力を持っていることとくらいだ。
誕生日も、年齢も、名前も、生まれ育った場所も聞いたことがない。
聞く口実もなかったから。
「上下関係をしっかりさせたくて、名前で呼ぶことを禁じているのよ」
「そうか」
「現世では、名前で呼ばれるのが当たり前なんだけどね」
主は不思議そうな顔をしていた。
なぜ急にそんなことを聞いてくるのだろう、と。
「不思議か?」
「そりゃあね。今までそんなこと聞いてきたことなかったし」
「俺は貴女の愛刀だ。好いている相手を知りたいと思うのは、人間も同じだと思うのだが」
主は肩の力を抜いて、月を見上げたままだった。
「望」
「ん?」
「だから、望。私の審神者名」
「いいのか?そんなにさらりと俺に明かしても。名前を出すことは禁じているのでは…」
「知りたかったのでしょう?」
日光の方を見る主の顔は、穏やかな顔をしていて。
その眼差しは日光を信じているからと言ってくれているようで。
もちろん、守秘する必要があるものならば自分の本体が折れても他言しない。