第1章 眠り姫
「…ん、上出来だな」
仕込んでいた葡萄酒の味見をしている。
自分の味覚では甘みが強いが、葡萄本来の甘みだからこれはこのまま残しておきたい。
主は甘い物が好きだという話を耳にし、発酵はこれで終わらせることにした。
種や皮を搾って果汁をろ過し、果汁のみを別の容器に移し替えると地下の貯蔵庫で冷やす。
もうすぐ完成すると思うと、自分でも楽しみだった。
*
「えっ、葡萄酒が出来上がった?」
「ああ、今は冷やしている状態だ」
約束通り、葡萄酒の完成を主に報告した。
完成を待っていてくれた主が、とても嬉しそうな顔をしている。
主はちょっと待っててと小走りで自室へ行き、何かを持って戻ってきた。
「日光、見て」
「ん?何だ、それは」
緩衝材に包まれたまま保管していた、例のあれ。
時が来たら日光に見せようと思い、開けずに保管していた。
緩衝材の包みを開ければ、透明な食器が顔を出す。
「ほう、なかなか洗礼された器だな?」
「硝子で出来た飲み物用の器よ。なかなかお洒落でしょう?
私がいた現代では、グラスって言うの」
日光もグラスに興味を示してくれているようで、
葡萄酒はこれで飲もうと提案したら、快く良いぞと返ってきてホッとした。
「2つ、あるが」
「うん。だから、もう1つは日光が使うの」
「俺が?」
「葡萄酒を飲む時に…と思って買ったから」
なるほど、と納得していた。
そういうことなら使わずにはいられない。
すぐにグラスを洗い、布巾で拭きあげると自分専用の食器棚に保管する。
使う時は、あの葡萄酒が飲み頃になった時。