第1章 眠り姫
万屋。
「うーん…」
「小鳥よ、何を買うのかな?」
「新しい苗を買おうと思って…」
「苗?まだ増やすと言うのか?」
夏にはスイカや苦瓜、とうもろこしなんかも買っていて、その季節の野菜や果物の苗を買ってくる。
勿論、一部は燭台切光忠の要望もあってだが。
「えーと…。あ、あったあった…」
小さな鉢に植えられた苗。
それをジッと見つめている。
「お嬢さんいらっしゃい。それは葡萄の苗木だよ」
何度か色んな苗木や種を買うことから、この万屋の店主とはすっかり知り合いになっていて、色んな苗木や種も仕入れてくれるようになったのだ。
「この葡萄の苗木、8つください」
「はいよ。今日は初めて見る男士を連れているんだねえ」
「他に頼める人がいなかったから…」
山鳥毛は葡萄の苗木を買いたかったのか…成程、と納得した。
確かにこれは主だけでは持ち運べないなと。
「またおいで」
「ありがとうございます」
8つの苗木が入った袋を1人で持つ。
万屋の店主は重たくならないようにと4つずつに分けて袋詰めしてくれたが、思った以上に重たい。
「………っ」
重たそうにしている主の両手から袋を取り上げると、
手が軽くなったことに驚いて山鳥毛を見上げた。
「私は、このための付き添いだろう?」
「自分でも持てると思ったのだけど…」
「なぜ、葡萄の苗木だったんだ?」
「私が葡萄を食べたくなって苗木買っちゃえ!って思ったのよ。
でもこのことは皆にも内緒にしておいて、恥ずかしいから」
「ああ、分かった」
本当は、日光が葡萄はないのかって言ってるのを聞いてしまったから。
…なんて理由で葡萄の苗木を買ったことは自分の胸にしまっておこう
本丸に帰ってくると、手合わせを終えた2人が休憩をしている。
「やあ主、おかえり」
「ただいま」
ちらりと日光の顔を見たが、目線は合わなかった。
そういうものだ、彼はまだ顕現して日が浅いのだからと気にしないことにした。
「新しい苗木を買ってきたんだね」
「うん。これから植えるから、光忠手伝って。
いずれ剪定の必要ありだけど、実ってからのお楽しみよ」
「任せて、実がつくまでちゃんと育てるから」
光忠と買ったばかりの苗木を植えた。
これは葡萄の苗木、いずれは日光にも世話をさせよう。