第2章 ぼんさん目線
「なーに言ってるの、なんもないなんもない」
「本当ですか?」
ぎょっとする。まるで本当は知っているんですよ、みたいな言い方。ただ、彼は他人に秘密を漏らすようなことをする男ではないことも知ってはいた。彼は既婚者だし、この手の話には少し強いかもしれない、ととうとう俺は折れた。
「ラブレターですよ」
俺はおんりーチャンからの手紙を見せた。ドズル先生はえっ、と驚いた後、声を潜めて言葉を続けた。
「それ、ガチのやつじゃないですか」
「だよね〜」
「読んでないんです?」
「それは……読んだけど」
他愛もない内容だった。ただ、最後の文に連絡先を交換したい、と書いてあったこと以外は。
「どうするんですか、ぼんさん」
「うーん……」
連絡先くらいならいいかも、と思いはしたが、俺たちは教師と生徒という立場だ。この状況を周りが騒がないはずもない、とさすがに俺も分かってはいた。
「今は多様性ですよ、ぼんさん」
まるでこちら側の心境を見抜いたかのような発言。なんで分かるの、なんて言ったら全てがバレてしまう。俺が今ここから離れるチャンスは、煙草を吸いに行くしかない、と引き出しに手を伸ばしかけた矢先だった。
「ぼんさん、提案があるんだけど……」
「……え?」
今の世の中は多様性ですよ。彼がそう言った本当の理由が今ここで判明することとなった。
「その子と一緒に、ゲーム実況するんですよ」
それは、突拍子もない提案だった。
しかし、そんな訳の分からない提案が、いずれ大人気ゲーム実況グループを生み出したというのは、語るまででもないだろう。
おしまい