第10章 過ぎた恋の話し
難しい顔でまた黙り込む松岡さん
胸が、チリチリと痛む
だけど…
「……此処に来る前にね、僕、決めたんだ……
……松岡さんに逢って、ちゃんとさよならを言おうって……」
「………大野」
「有り難う、松岡さん……僕、貴方に愛されて……貴方を愛して幸せだった……
……でも、僕も卒業するんだ……貴方って言う、幻から……」
「……幻……」
譫言のように、僕の言葉をなぞる松岡さん
僕は、数え切れないほど触れたその唇に、最後のキスをした
「………愛してた……本当は今でも愛してる……でも、さよならだよ……昌宏……」
「………智」
ベッドの中の一時でしか呼び合わない名を呼んで、僕は立ち上がった
「………行くのか」
「………うん」
僕はドアの前まで歩いていき、ドアノブを掴むと、振り向いて言った
「もう二度と連絡して来ないでね?
僕の可愛いさくらんぼさんが、ヤキモチ妬くといけないから」
「……さくらんぼ?」
僕を半分睨むように訝しげに首を傾げる松岡さん
僕はそんな彼に、またクスクス笑いながら言った
「そ、真っ赤な真っ赤なさくらんぼさん(笑)」
僕はそう言って笑うと、部屋を出て行った
閉めたドアが開く音がした気がしたけど
僕は
一度も振り向かずに店を出て行った