第10章 過ぎた恋の話し
「……どうしても……戻る気はないのか…?」
僕を抱き締めたまま、松岡さんが伺うように僕を見る
僕は、ゆっくり頷いて真っ直ぐに彼を見詰めた
「……僕ね、新しい恋が出来そうなんだ」
ソレを聞いた松岡さんが、難しい顔をして言った
「………松本か?………あいつ、彼女がいるそうだぞ」
「なんだ、松岡さん知ってたんだ(笑)」
彼女がいる人を間違って紹介するなんて、松岡さんがそんなミスを…って思ってたけど
…わざとだったんだね(笑)
「何で、彼女がいるって解ってる人に僕を託したの?」
「……それは……」
何時も雄弁な松岡さんが、口ごもる
僕はクスクス笑いながら言った
「当ててあげようか?」
「……何だ」
「そうすれば僕が、自分のコトを忘れずにいるって思ったんでしょ?」
「……」
黙り込む松岡さん
僕は構わず続けて言った
「残念だけど、松本さんは浮気するような人じゃなかったよ?
…付き合ってる彼女を捨てるような人でも…ね」
「…では、お前が恋をしそうだと言う相手は、誰なんだ?」
普段から強面な松岡さんの顔が、益々おっかなくなる
だけど、僕には何故かそれが可笑しくて、またクスクスと笑った
「松岡さんの、知らない人」
「……そうか……俺の、知らない男か……」
「……うん」
「………」