第10章 過ぎた恋の話し
僕は、松岡さんの胸を押して、体を起こした
「……ダメだよ、松岡さん……嘘付いちゃ」
「……大野」
松岡さんの大きな瞳が、見たことのない困惑した色に染まる
「……松岡さんは、奥さんと別れない……ん〜ん、別れちゃいけないんだ」
「大野、だが俺は…」
「始めから僕ら、間違ってた」
「………」
「……松岡さん、貴方が……」
僕は、愛して止まない人の頬を、そっと撫でた
「……貴方がもしも、奥さんと別れて僕を迎えに来ていたなら、もしかしたら貴方に靡いていたかも知れない……
……でも、それでもいずれ、僕らは終わってた」
「………何故」
「僕、知ってるんだ……松岡さん、貴方は……
……貴方は、奥さんを愛してる」
「!!何を言ってるんだ!俺が愛してるのは、お前だ大野!!」
僕を抱いた松岡さんの腕が、ギリギリと僕を締め付ける
その痛いほどの包容に身を任せながら、僕は言った
「うん、知ってるよ……でも、奥さんの事も愛してるんだ……
……だから、彼女に僕の事がバレて、僕を捨てた……そうでしょ?」
「……大野……」
「……結局、同じだよ」
僕は松岡さんの胸に顔を押し当てて
もう二度と包まれるコトのない、その匂いを吸い込んだ
「過ちを犯したのは、僕らの方だ……その罪悪感から逃れる事は……
……僕にも、松岡さんにも……出来ないんだから」
「………」
松岡さんは、黙って僕の話を聞いている
僕は、またその頬に手を置いて、話を続けた
「だからね、もう良いんだ……
……もう、終わりにしようよ」