第8章 因果呪縛を解く
この日、伽那夛は珍しく甚爾から誘われ、とある料亭の個室で落ち合っていた。
店の門構えや従業員の所作、調度品の一つ一つにも上品さがあり、高級な部類の料亭だろう。
有り体に言うならば、大物政治家が密会に使っていそうな場所だった。
個室に通されると飲み物の注文を取られ、2人ともお茶を頼む。
甚爾は酒を飲むものだとばかり思っていた伽那夛は意外そうに彼の顔を見た。
「お酒は飲まないの?」
「好きじゃねぇんだよ」
「へぇ〜、下戸なのね?すごく意外だわ」
「違ぇよ、その逆」
「?」
「いくら飲んでも酔わねぇからな、俺。良さが全く分からん」
「ああ、成程ね、そういうこと」
そんな会話をしていると、早々に料理が運ばれてきた。
「……それで、何の話がしたいの?」
そう尋ねながら、出された料理を綺麗な所作で口に運ぶ。
さすが五条家の娘というべきか、こんな店に入っても伽那夛は慣れたものだ。
普段の甚爾ならこんな所に伽那夛を呼ぶことはない。
にも関わらずということは万一にも津美紀や恵に聞かれてはならない、彼の表には出せない稼業の話だろうと伽那夛も見当はついていた。
「俺にある依頼が来た」
「……そういうこと話していいの?」
「だからここに呼んだんだよ」
やっぱり、とこぼした伽那夛は箸を置く。
「悪い男ね」
「知ってんだろ」
意地悪く笑った甚爾が切り出したのは伽那夛には思いもよらない“仕事”だった。
呪術界の要、東京高専の地下最深部にて日本国内のありとあらゆる結界を強化・行使している天元。
1000年もの間呪術界を支え続けている天元は、自身の不死の術式により、人としての老化を終えると、肉体を創り変えてしまう。
そうなると何が起こるのか、天元本人すら分からないという。
万が一にも呪術界の敵とならぬために、適合する肉体を持つ星漿体と定期的に同化することで、創り変えを阻止しているのだ。
甚爾の口から語られたのは、その天元の老化をリセットするための器である星漿体を暗殺すること。