第16章 夢の中の彼と香りの記憶
嫌な視線というのはあまり感じられず、本当に不思議な人だった。
「お待たせしました。閉店時間が近いので、別のお店でお話しましょう。
コーヒーでもどうですか?ご馳走させてください。」
「心遣いは嬉しいが、私が自分でいただくものは自分で払わせてほしい。」
話を聞いてもらうのにそれでいいのかなと思ったけど、私よりずっと大人の人…
プライドとかもあるんじゃないかと思って私は納得させた。
「それで、話とは?」
「えっと、まずあなたの事をなんて呼べばいいですか?お名前とか聞いても…」
「あぁ、人に名乗れるような名を持っていなくて」
「名がないということですか?」
「いや、あるんだが……」
「なんと呼べば…御家族からなんて呼ばれて?」
「………君に似ていた子は幼い時、時々ちょもと呼んでいたなぁ。」
「ちょも…さん。」
「まぁ、そう呼んでくれた方が都合がいい。」
ちょもさんはニコリと口角を上げて微笑み、コーヒーをすする。
「それで話とは?」
「あ、そうなんです。」
私は夢での話をした。
「ほう…。」
ちょもさんは話をじっくり聞いている。
「なんだか、ただの夢って訳ではなさそうで。
心当たりが分からないし…」
でも知りたかった。
毎日のように見るようになった夢の正体を。