第16章 夢の中の彼と香りの記憶
朝起きると涙が頬を伝っていた。
ここ最近、毎日同じような夢を見る。
幸福感と喪失の繰り返し。
「雛鳥…?ぼーっとしてどうかしたのかい?」
バイトをしているとまたいらしてくれたらしく、私はお客さんが来ていたことに気が付かなかった。
「あ、すみません…。ちょっと寝不足みたいで…」
「寝不足?それは良くないなぁ、きちんと寝ないと体が持たないよ?」
「すみません、お心遣いありがとうございます。」
なんでだろう…この人、似ている気がするんだよね。
服装は違うけどなんて言うか、他人の空似?
「?私の顔に何かついているのかな?」
「あ、いえ。なんでもないです。」
私は視線をそらした。
そりゃそうだよね、人をジロジロと見るのは良くない。
「悩み事があるのなら、私で良ければ聞いても?
あぁ、申し訳ないが男女の話は力になれないが…。」
「……寝ているとよく見る夢の話でも聞いてもらえます?」
「ん…?」
なんで、私はただの常連客にこんな話をしたのか分からない。
ただ、悩みというのは誰かに話すに限るのかもと思った程度だった。
「あぁ、私で良ければ。」
「ありがとうございます。
あと1時間くらいしたら、今日の分は終わるので待っていてくれませんか?」
「問題ない。そしたら、私はそこの席で待たせてもらうよ。
それと、今日はこのおはぎをいただきたい。」
「分かりました。」
仕込みや、接客を終わらせて閉店1時間前に仕事を切り上げた。その間、お客さんは私のことを見守るように見ていた気がする。