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えびまるの短編集《文スト》

第3章 拾い物 (中原中也)



突如聞こえた謎の叫び声とどんどん下がる気温

そろそろ俺寒くて死ぬ
外套の裾を握り締め、声の方を見る

女が1人に男が数人

海の上でなにかしている



は?
…海の上?!


よく見ると海面に透明な板のようなものが張っている

多分氷だろう
じゃあさっきの破片もあの女の仕業か

待てよ、あの女…もしかして



ーーー


『はい!じゃあ事情はわかったから帰ってねー』

「…」

『抵抗する元気ない?私の地元じゃあこの程度の気温当たり前ですが…』


女の方へ近づく


「(この氷俺も乗れんのか?)」


『ん?…貴方は?、この人たちのボス?』

だったらもう負けだと思うけど…と彼女は眉を下げる

「違ぇよ、…俺だよ俺」

『え?電話de詐欺…?電話じゃないけど…』

「…チッ、一々腹立つな」

『…?』

ほんとに覚えてねえのかよ

…1週間ずっと考えてたのは俺だけってか、


『ごめんなさい…知らない人にはついて行かないよう言われてて…』


「これを見てもそれが言えるかよ」

拾った時計を差し出す


『…!どうして、これを?!』

「この間超急いでた手前とぶつかった時に、落としてったんだろーが」

『嗚呼…!そんなこともありましたね…』

何がそんなこともありましたね、だよ


『困っていたのですごく助かりました…!ぶつかってしまった挙句落し物まで拾っていただいて…ありがとうございます!』

「良かったな、大事なもんなんだろ?」

『いや、そこまで…?』

「…、そこは嘘でも大事なものですって言うんだよ莫迦野郎」

変な奴だ、でも何故か放っておけない

『ふふっ、そうですね、とっても大切なものですよ…!特にこの美しいタンザナイト…』

まだ名前も知らない女は初めて笑った
周りの凍てつく空気には似合わない屈託のない笑顔

なんだか自分も氷柱で刺されたような…寒さの所為なのか胸が締め付けられるような…そんな感情
俺のまだ知らないところ
上手く頭が回らなくて…唯、海と空と彼女の笑顔が

…綺麗だな、とか思ったり思わなかったり










ℯ𝓃𝒹
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