第5章 流星群が誘う旅
「煉獄さん、少しよろしいでしょうか」
民家の前で鎹鴉の要を見送り、屋敷周りを見て回っていた杏寿郎の元に隠が駆け寄る。
「何か、気になる所があるか? 」
「いえ、そうではないのですが…」
「ん? 」
女性の隠は少し俯いて、もじもじとしている。隠の制服は、男女問わずに顔も覆われて目元の辺りしか見えないが、何故か目の周りまでが赤く色づいている。
「君、体調が悪いのか? 」
「い、いえ…大丈夫です」
杏寿郎は隠の女性に一歩近づいた。今、この場所では甲の杏寿郎が一番上の立場にある。全体の責任者として、皆の安全にも気を配る必要があった。
「ではどうした?何でも言ってみてくれ。処理に困る事があったか? 」
隠の女性は頭を振った。とても焦っている様子が見えて、杏寿郎は不思議になる。
「煉獄さん…お時間のある時に…読んでいただけますでしょうか…」
隠の女性が服の胸の中にある隠しポケットから、小さめの封筒を取り出した。
女性の好むような薄桃色の紙製の便箋のようだ。
おずおずと差し出す手は震えている。杏寿郎はようやく理解できた。
「分かった。家に帰ってから読む。君はまだ仕事中だから、終わるまでは気を抜いてはいけないよ。怪我のないように頼む」
「はっ、はい! 」
隠の女性は深くお辞儀をしてから現場に戻って行った。走って他の作業中の隠の中に混じりながらまだ胸が激しくドキドキしていた。
煉獄さんが、怒鳴りつけたり怒った態度をしないで手紙を受け取ってくれた事。それがとても嬉しかった。手がまだ震えている。
煉獄さんとは、時々任務で一緒になる事があり、彼はいつも後処理の現場で的確な指示を出す。隠が作業する間、危険が残ってないか慎重に確認してくれる。
何度か、そういう場での煉獄さんを見るたびに、上司として以上の想いが芽生えていた。隊士の中には飛び抜けて素敵な人がいて、そんな彼らに会えるのが楽しみでもある。
同じ隠の間でも、隊士や柱に想いを寄せている女の子は沢山いる。この隠の女性も、そういう一人であり、特に杏寿郎の事を好いていた。
杏寿郎は封筒を胸のポケットにしまうと、事後処理を手伝い、甘露寺と共に帰路につく。今夜は予定が入っていた。