第7章 ※ 鬱金香のピンクは愛の芽生え
本堂の扉は開かれていて、村人のお供えしたお饅頭が可愛いく並んでいる。皆が無事に今年の参拝を終える事ができた証しにほっこりした。
師範はどんな気持ちかな。静かに立つ煉獄さんの事を、そっと盗み見た。
「ん?何だ、ひなた。俺達も、村の人に習って願い事をしよう! 」
「うん! 」
杏寿郎は祭壇の上に置かれた特設のお供え台に、お饅頭を一つ乗せた。ひなたもその横にお饅頭を置いて、二人は手を合わせる。
暫くの間、二人は無言で静かに祈りを捧げる。
観音様らしき像が優しく輝いていて、この場所にいる事も、月の光に照らされている事も、全てが神秘的な出来事に感じられた。
「さあ、戻ろうか」
また歩き出す。甘く輝くような月夜に照らされ、二人だけ。甘いと言えば、かなり甘い夜だ。
「煉獄さんは何をお願いしたの? 」
いくつかあるかもしれないけど、一つ聞かせて欲しかった。
「俺は、大切な人達の事を願った。ひなたは何を願った? 」
「わたし⁈ 」
「ああ!何を願った? 」
ひなたの願いは、沢山あるけど、最大の願いは煉獄さんの事だ。
煉獄さんに、生きて欲しい。もしも願いが叶うのなら、煉獄さんを死なせない。
でも、それは煉獄さんには内緒なのだ。
「全集中の呼吸がもっと上手くなりますようにだよ。あとは師範と一緒で、大切な人達のことです」
「ほう!! 」
師匠の感心しきった声に顔を上げた。
煉獄さんは、ひなたを称えるような目で見ていた。
「それは褒むべき心がけだ!俺は良い継子を持った! 」
明るく笑いながら歩いていく師範と、肩を並べて歩きながら、ひなたは先程から感じている思いを口にする。
「煉獄さん。私と…」
逃げましょう。あなたが二十歳になる前に、ここを離れて、どこか遠くに行きましょう。私、煉獄さんとなら二人でも生活できる…。
半ば本気だ。でも、言いかけた言葉が最後まで言えない。
師範がこちらを見ていて、師範を知れば知るほどに、絶対にそんな事はしないと分かるから…。
だからひなたは誤魔化して
「常中できるようになったら、ご褒美くださいね! 」
明るい継子として振る舞う。
「こら。常中は必須だぞ。特別な事ではない。だが、よかろう! 」