第7章 ※ 鬱金香のピンクは愛の芽生え
「ああ、あれか!林檎の西洋菓子か! 」
夏用の座布団に胡座をかいて座っている杏寿郎は、ちゃぶ台の上に腕を置いている。姿勢良く座り、涼しげな浴衣に腕を通した姿。ちゃぶ台に突っ伏しているひなたの前で元気な声で言った。
「うん。向こうは冬だからアップルパイにしたの。私も手伝ったんだよ」
浴衣から伸ばした腕が、杏寿郎の腕に触れそうに近かった。
「ひなたさんが作ったのですか⁈とっても美味しかったです!また作ってください!ね、兄上!! 」
千寿郎君が、ワクワクした瞳をしてひなたの隣に座る。
「美味かったぞ!萩さんも喜んだ。ありがとう! 」
杏寿郎はすぐ近くにあるひなたの腕が目に入る。
…繊細な腕だな。この細腕で、あのように美味い菓子を作るとは。
煉獄家に届けてくれたのは隠で、産屋敷家からの贈り物という事だった。時々、お館様から隊士に贈り物が届く事がある。杏寿郎は初め、今回もお館様からの心遣いだとばかり思っていた。ひなたからだったとは…。
知らずに食したが美味かった。
ひなたはちゃぶ台から顔を上げた。
「あっ、あれね、アオイさんが作ったの。私は横で林檎を並べたりしただけなの。作り方は習ったけど、一人では作った事なくて! 」
慌てて話したら、身を起こした拍子に杏寿郎の手に手が触れた。
一瞬、暖かくて優しい感触に触れて、心地よかった。
「そうなのですね…。とても美味しく、滋養ある食べ物だと思いました。俺も作ってみたいなぁ」
アップルパイの美味しい記憶を思い出したように、千寿郎君は言った。
その言い方がすごく可愛くて、ひなたは何とかもう一度、この家の人達に食べて欲しくなった。
「千寿郎、作るのは大変なのだろう。ひなたが困っているぞ。帝国ホテルにあるかもしれないから、探してみよう」
弟の願いを叶えてやりたい、そんな優しいお兄さんの煉獄さんを感じて、ひなたは二人に笑いかけた。
「私、お料理が下手なの。だから失敗して、千寿郎君をガッカリさせるかもしれないけど、冬になったら作ってみようね! 」