第3章 必要とされないモデル
「愛ちゃん、良いよ。笑顔頂戴」
「はい」
カメラマンの声に応えてポーズをとる。モデルの着ているシフォン素材のスカートがふわり揺れて、カメラはその瞬間を捉えた。
その横にいるひなたも、隣のモデルの動きに合わせて、手にしている新作のバッグが映えるポーズを瞬時にきめる。
「ひなたちゃん、流石だね!可愛いよ、ありがと」
「はい」
何度も一緒にお仕事をしてきたカメラマンの近藤さんだ。ひなたには彼が求めているものは分かる。天性の勘の良さは流れるような動きとなりカメラマンを魅了した。
カメラのシャッター音が鳴り止まない。緊張感で張り詰めたスタジオで、二人のモデルにもまた熱が入る。
今日は朝から、春夏コレクションの撮影である。
春の庭に迷い込んだような、淡いパステルの花で埋め尽くされたスタジオで早朝から始まった撮影の真っ最中だ。
某人気アパレルの新作を身に纏い、輝くような容姿で微笑むと、居合わせたスタッフからため息が漏れた。
この仕事にも慣れている。
隣にいるモデルの愛ちゃんは同じ事務所の後輩だ。新人だった愛ちゃんも、今やひなたと肩を並べて撮影に臨むまでに成長した。
「じゃ、ひなたちゃんと愛ちゃん、顔寄せて」
ひなたと愛ちゃんは春の柔らかな花に頬を寄せるポーズをして、花弁に口づける。
「良いね!可愛い可愛い!!二人共、めちゃくちゃ可愛い」
周りに待機しているスタッフも皆、可愛いを繰り返している。
撮影の時の決めゼリフのような「可愛い」を沢山浴びてから、午前中の撮影が終了した。
「休憩に入りまーす! 」
その言葉で、ピンと張り詰めていた現場にホッとした空気が漂い、スタッフも皆散っていく。
「ひなたちゃん、愛ちゃんお疲れ様でした!休憩どうぞ」
スタッフに促され、ひなたの休憩時間だ。
ケータリングのヘルシーな食事が並ぶテーブルへと歩き出して、振り向いたひなたは、愛ちゃんがカメラマンと話をしているのが見えた。
何か確認したい事があったかな?
テーブルの上にはひなたの好きな葉野菜とマンゴーのミックススムージーに玄米の小さなおにぎり、人気のお店のヴィーガン・サンドイッチが所狭しと並んでいる。