第1章 吉兆を告げる白梅
飴色をした廊下に白い足袋が映り込む。杏寿郎少年の脚だ。
「父上!今からお役目に出られるのですか⁉︎ 」
背の高い父を見上げ、小走りになりながら問いかけた。
歳の頃はまだ九つ程か。滾る炎を瞳に宿している。今朝はそれにちょっとした興奮が加わっているので、瞳の輝きが増していた。
外は凍てつく空気が、木々の先を固く凍らせている。
家の中に忍び込んだ外からの冷気は、玄関に近づくにつれて首元を冷やっとさせた。
杏寿郎少年は足袋を滑らせながら速度を落とす。
父の気分を害してはならない事を知っているのだ。お見送りの時には心を込めるようにと母に教えられてきた。
父、槇寿郎はそんな息子を一瞥したあと、また前を向く。固く閉ざされていた口元が開き、低く凛々しい声が長い廊下の奥まで響いた。
「うむ。今から出てくる。杏寿郎、千寿郎をきちんと見ておけ。世話をしてくれる手伝いの人に我儘を言ってはならんぞ」
父は足を止める事なく玄関へと歩を進め、杏寿郎はその後を追いかける。