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我が先達の航海士

第3章 真の風


操舵手を変わるに、龍水が双眼鏡で海面を見る。
「進行方向に計画通り乗ってはいるが、風上に対して左に25度ってところだな」
「え、帆船って風上には行けないんじゃっ」
SAIの声が震える。帆船は風で動くから、そう考えるのは無理もない。実際そうだが——

「やり方次第では行けるさ。龍水、変われ!私が指示を出す、その通り操舵しろ。タッキングだ!」
「その技法なら知ってるぞ、ぜひやらせて貰おう!」
龍水が操舵手を代わり、今度はが双眼鏡を見つつ指示を出す。
「ハード・ア・スターボード!」
「はっはーーっ!ハード・ア・スターボード、サー!」
龍水が右いっぱいまで舵を切り、帆が風を受ける方向を変えた。船がジグザグと45度の軌道を描き風上へと進む。

「これはっ?」
激しい動きに、先程の酔い止めが無ければ危なかったと思いつつSAIが訊く。
「タッキングと呼ばれるセーリング操術だ。帆船は四角帆で45度、三角帆で60度程度風上に切り上げられる。それでジグザグ進めば風上方向にも行ける!」
の指示通りきっちり操舵する龍水。何とか風上に向けて進み、時化も引いた。

「SAI君。もう大丈夫、当直の航海士呼んで休んで」
龍水に何だこれ、君は気象予報士の資格持ちだろう?現代機器がない分その辺何とかしろ!と叱りつつ指示を出す。SAIが去った後、龍水は堂々と答える。

「いや?貴様の本来の腕前ならこれくらい安いものだと義兄に聞いたのでな!」
「まだ結婚してないよね?義兄って」
がドン引きしながら龍水の元に近寄ると、ぐい、と急に腰を片腕で寄せる。
「何するの龍水!」
「いや?矢張り貴様は美しき海の姫君だと思ってな。貴様の全てが欲しい!!」
を抱き締めつつ片手で操舵するので、戻ってきた当直の二等航海士がやりづらそうに入口で立ち止まっている。
「もう!私は夜の当直に向けて寝るからな!?」
「ふむ、貴様は桃の様な良い匂いがして心地よいのだが。致し方ないか」
肩に顎をのせての香りを楽しんだ後、龍水は再び操舵に戻った。解放されたは寝室の3段ベッドに横になるも。
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