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イケメン戦国 書き散らかした妄想

第10章 恋慕3−1 花の赦し ノーマルEND【家康】


「‥‥…いえやす‥‥」

鈴の音のような、かすかな声。

ふっと宙に浮いてから家康の耳に柔らかく染み入る。

家康がはっと目を開け隣を見ると、名無しがまつげを震わせその目を開けた。

「名無し?!」

がばっと体を起こし、名無しの顔を覗き込む。

「起きた?!」

名無しは、ぼんやりとした目で家康を見つめた。

「大丈夫?」

「‥‥」

「痛いところある?」

「‥‥」

「‥‥‥俺が‥‥わかる‥‥?」

名無しはかすかに頷いた。

(ああ……)

家康の胸に安堵が広がる。

「少しでいいから、水を飲める?」

名無しはもう一度かすかに頷く。

家康は匙に水を取り、唇にあてがった。

それはすうっと吸い込まれた。

「飲めた‥‥」

それを何度か繰り返す。

家康は名無しの上半身をささえ、水差しを唇に当てがう。

「無理しなくていい、ゆっくりで」

名無しの喉がこくんと小さく動き、水を飲んだ。

「良かった」

飲み終わってから、名無しの体を再びそっと横たえる。

その目はとろとろしていた。

「眠ってていいよ」

家康が優しく頬を撫でると、名無しはそっと唇を動かした。

「‥‥はな‥‥」

唇にほんのり笑みをたたえながら、名無しはまぶたを閉じる。

名無しが喜んでくれた。

希望の光が確実に差している。

家康は勝手に顔がほころぶのを止められなかった。

「邪魔するぞ」

そこへ入ってきたのは、光秀だった。

「柄にもなく、お前がたくさんの花を抱えていたと聞き見に来てみれば、効果はあったようだな」

「いつから見てたんですか?」

家康はすぐにいつもの表情へと戻す。

「ついさっきだ。良い兆しだな。明日から毎日、花を届けさせよう」

「桔梗の花ばかりではなく、他の花もお願いしますよ」

「よかろう」

光秀は笑いながら帰って行った。

(不思議な人だ。いつも全て見透かされてるみたいに)

でも今はもう、それでも良かった。

その後、名無しが目覚めたという知らせを聞き、信長や他の武将もやって来たが、その前で名無しが目を覚ます事は無かった。
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