第33章 歪んだ愛で抱かれる 後編
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『三成くんって天使みたい』
『てんし…?それは何ですか?』
『…えっと、外国の神さまに仕えてるって信じられてる存在、かな』
『神の…?いえ、そんな大それたものではありませんよ』
『天使みたいっていうのはね、心が清らかな人ってことだよ。笑顔が可愛くて、純粋無垢って感じで、皆に優しい三成くんを見てるだけで私は癒されるの』
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(違う…)
名無しは褒めてくれていたようだが、三成にとっては全然嬉しくない言葉だった。
『笑顔が可愛い』
『純粋無垢』
『皆に優しい』
さらには『見てるだけでいい』だなんて、
名無しにとって自分は単に無害な存在で、
まったく男として見られていない。
それを突きつけられ、見くびられている気さえした。
むしろ、名無しが『天使』というもののようだと思う。
純粋で愛らしく、特別な存在。
自分はその『天使』に強く恋い焦がれるただの男。
それも自分のものにしたい、さらには穢したいという黒い欲望まで抱いている。
「三成くん…?」
名無しは、いつもの優しい表情が消えた三成の様子をうかがいながら、
「手…どうして縛られているの?…ねえ、これ解いて」
紐で括られた両手を差し出して、恐る恐るそう言った。
(ああ…終わりか…)
名無しの前で黒い欲望をひた隠しにしながら演じてきた、天使のような『三成くん』はもう終わり。
彼女が心を許し安心しきった笑顔を見せてくれるのは、それはそれで心地よかったので一抹の寂しさを覚える。
もう既に本性はバレているのだろう。
三成の中で欲望の扉が解放されていく。
差し出された名無しの両手を掴んで、その体をぐいっと引き寄せた。
「今のご自分の立場をわかっていないようですね。貴女は私の最愛の人ですが、今は私の戦利品なのですよ」
纏う空気がガラリと変わった三成に、名無しは息をのんでぎゅっと身をすくませた。
「ああ、語弊がありましたね。決して名無し様を物扱いしているわけではありません。ですが、私が戦って奪い取ったのだから、好きにする権利がある。これからずっと、私だけのものですよ」