第33章 歪んだ愛で抱かれる 後編
部屋に入って褥に下ろしても彼女はまだ目を覚まさない。
「ああ…」
とうとう手に入れた最もいとおしい存在。
特別に造らせたこの強固な部屋に連れてきて、どんな猛者でも破れない頑丈な扉に鍵をかけて、名無しを閉じこめることができた。
このために何ヶ月もかけて計略をすすめて、いよいよ目的を果たせた瞬間なのに、手放しで歓喜に酔いしれることができない。
脳裏に鮮明に浮かぶのは忌々しい光景。
かやの導きで名無しを追いかけ、隠し通路を抜けて目にしたのは…
蘭丸が名無しの手を縛って肩を掴み、何か言い聞かせている姿。
おそらく自害を止めようとしていたのだろう。
それは自分の役目のはずだった。
策略通りに川名を滅ぼしたのに、あろうことか蘭丸に先を越されて名無しを奪われた。
全身の血が逆流するような感覚とともに怒りが沸き立つ。
なぜ思い通りにならない?
完璧な策なのになぜ邪魔が入る?
再燃する憤怒から気をそらそうと、
「…名無し様…」
いまだ目を覚まさない名無しに語りかけた。
「着物が汚れてしまいましたね…」
やわらかい微笑みと優しい声を作り、いつも彼女の前で見せている優しい『三成くん』へと擬態してみる。
それでも抑えきれない怒りで細かく震えてしまう手を伸ばし、名無しの小袖を脱がせていく。
白い襦袢姿に剥くと、それは結ばれたあの夜の彼女のようで、におい立つほどに煽情的だった。
辺りの空気が一瞬にして変わった気がする。
突き上げる衝動のまま、三成は彼女の手首を重ねてそれを紐で縛った。
あのとき蘭丸がしていたように。
「ん……」
名無しが小さく声を上げてから、ゆっくりと瞼を開いた。
「名無し様…」
「……」
「大丈夫ですか?」
ぼんやりとした瞳に、覗き込む『三成くん』としての顔が映る。
(まだぼうっとしている今なら…)
「喉は渇いてませんか?お水、飲んでください」
舶来のガラス製水差しから杯に注ぎ、名無しの上半身を支えて唇にあてがうと、そのまま素直に飲んでくれた。
ふっと、三成の唇に笑みが浮かぶ。