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イケメン戦国 書き散らかした妄想

第32章 歪んだ愛で抱かれる 中編


そのまま蘭丸を拾って育ててくれた恩人の顕如は、やがて対立していた信長によって本願寺を追われ、門徒たちが何人も犠牲になった。

復讐の鬼と化した顕如のために、蘭丸は小姓として安土城に入り込んで敵情を探り、信長暗殺を目論んでいた。
 
蘭丸はそこまでの経緯を、まるで報告書でも読み上げるように平坦な口調で話し続けていたが、

「だけど…だけどね…」

急に声を詰まらせる。

「おそばで過ごすうちに信長様の凄さを知って、尊敬せずにいられなくなった…。安土城の皆も温かくて優しくて、大好きになって…。信長様も、安土の皆もずっと生きていて欲しいって思うようになったんだ。毎日苦しくて…俺は顕如様も信長様も、どっちも裏切ってる」

(なんて痛ましいの…)

『名無し様、人の心って複雑だよね。表には見えなくても奥の奥で何かを抱えてたり、時には相反する2つの思いで引き裂かれそうになってたり…』

蘭丸が言っていた言葉は、彼自身のことでもあったんだと、名無しは思い返した。

「わかるよ…。蘭丸くんの信長様への尊厳のまなざしは本当だって。蘭丸くんは裏切ってない。二人への思いはどちらも本物だから…だからこんなに苦しんでる…」

「名無し様はやっぱり優しいな。…それでね、本能寺では俺が顕如様を導いた。顕如様が信長様をしとめようとした瞬間、とうとう復讐を果たせる!って思ったのと同時に、そんなの嫌だ!って止めたくなった。矛盾する思いに動けずにいたら…」

蘭丸は一度途切れさせてから、真っ直ぐに名無しを見つめて言葉を続けた。

「突然、名無し様があらわれて信長様を助けた。俺のしたかったことをやってくれた。引き裂かれそうになってた俺の心を救ってくれたんだよ。本当にありがとう」

(まさかあのとき、そんな思いで見てたなんて…)

「それから名無し様は俺の特別。桃と、顕如様とおんなじくらいにね!ずっと見てたよ。何かあれば力になりたいって」

その瞬間だけ、蘭丸に明るさが戻った。
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