第32章 歪んだ愛で抱かれる 中編
(首を…取った…?三成くんが‥泰俊様の首を…?)
大好きな人が、夫の命を奪った…
夫は、名無しの不貞相手に命を奪われた…
(私のせい…)
「名無し様、もうすぐです。もうすぐ三成様にお会いになれますよ。着いたらすぐに私がここへご案内します。どうか今しばらくお待ちくださいね」
優しく言ったかやは、名無しが無言で頷いたのを見て微笑むと駆け出していった。
嶺原もすでに去っており、部屋の外の見張りもいない。
一人になった名無しは、ふらつきながら部屋を出る。
そして静まりかえった城の中を走り出した。
向かったのは長年使われていないという隠し通路。
子どもの頃よく遊んでいた、と泰俊から聞いたことがあった。
通路に充満するひんやりカビ臭い空気を吸い込みながら、必死に駆け抜けていく。
胸の中を去来するのは、先ほどまで見聞きしてきた信じ難い事柄。
半刻ぐらい前に聞こえた動物の咆哮のような女の甲高い声。
あれはきっと、溺愛している息子・泰俊の死を知った姑の慟哭だったのだろう。
(ああ…!)
キリキリと胸に釘を打ちこまれるような痛みを覚える。
(私のせい…!私のせいで…!泰俊様は命を奪われた!)
『これで邪魔者はいなくなりました。名無し様の念願は叶って、とうとう三成様と結ばれるのですよ!』
かやの声が頭の中に鳴り響く。
(私が望んでいた…?違う…違うの…!三成くんが好きだけど、誰かを犠牲にして結ばれたいなんて…思ってない…)