第31章 歪んだ愛で抱かれる 前編 【三成】R18
嫁ぐ前に安土城で使っていた部屋はそのまま残してあって、4ヶ月ぶりにそこに入った名無しはふらふらと糸の切れたあやつり人形のように力なく座りこんだ。
秀吉と三成とお茶を飲んで別れてから、侍女たちが話していた噂話を耳にしてしまい、強く打ちのめされていた。
それは夫の泰俊が隣国の城に頻繁に出入りし、そこの姫に入れあげて側室に迎える準備を進めているというもの。
気が動転しながら、ただの噂話だと、嘘だと思いたくて名無しは泰俊の一つ一つの行動を思い返してみる。
ほとんど不在だけど、帰ったときは優しく接してくれていた。
何ら変わった様子はなかった…
そこまで考えてから、浮気を疑うような追求なんて無意味だと気づく。
この時代では側室を設けるのは珍しくない。
悪いことでも不貞でもなく、ごく当たり前のこと。
秀吉たちに話した、輿入れの夜の『政略とはいえ結ばれた縁を幸運に思う。一生添い遂げよう』という言葉を聞いたとき、
この人は自分を単なる戦略の道具として見ていない、
夫婦として良い関係を築けるかもしれない、
そう思って涙ぐんで希望を感じた自分が、あまりに単純すぎて哀れに思えてくる。
『一生添い遂げよう』と言われたって、妻にするのが自分だけだとは限らないのに。
覚悟して嫁いできたつもりだったけど浅はかだった。
いざ側室の可能性を感じると平静ではいられない。
さらに、この話を安土城で噂として聞いたのが屈辱的に思える。
実は川名家の人々は皆知っていて、孤立無援な自分だけが知らなかったのかもしれない…。
名無しは床に突っ伏しながら、嫌な妄想ばかりが頭を侵食していくのを止められないでいた。