第31章 歪んだ愛で抱かれる 前編 【三成】R18
輿入れの日、あかあかと燃える門火のそばで、見送りに来た武将たちとひとりひとり別れの言葉を交わした。
その場に三成の姿が無かったのがひどく寂しく、
(私は三成くんにとってどうでもいい存在だったのかな…)
輿の中で揺られながらずっと、胸に小さな棘が刺さったような痛みを感じていた。
川名家での新しい生活が始まり、その辛さは予想以上のもの。
夫となった泰俊は幸い穏やかでさっぱりとした人物に見受けられたが、輿入れ後から領地での反乱や同盟国の寝返りなど厄介事が続き、その対応でほぼ不在。
帰ってもゆっくり語り合える時間は取れず、彼の本当の性質は掴みきれていない。
舅は名無しにまったく無関心。
公家出身の姑は、とにかく行儀作法に厳しかった。
一見、やわらかい微笑みを浮かべながら、チクチクと遠回しな嫌味を言う。
泰俊の妹姫たちにも蔑まれている。
そもそも姫ではなく、ましてやこの時代の人間でもない名無しにはどう振る舞って良いのかわからない。
頼れる人はおらず孤独で、常に気を張り息が詰まる思いだった。
戦のない現代から戦国時代へと突然タイムスリップしてきた当初、何かと不安だった頃に
『わからないことは何でも聞いてくださいね』
と、笑顔で声をかけてくれ、いつも助けてくれた三成の優しさが幾度も思い出される。
彼のことが好きだった。
だけどそれは恋とは呼べないほど淡いもの。
どこか天然で可愛らしいのに、実は頭脳明晰で切れ者、軍師としての顔は別人のようにキリッと格好いい。
誰にでも別け隔てなく親切で、天使のような笑顔をふりまく彼が自分だけを好きになってくれる筈はない、初めからそう思っていた。
見てるだけで幸せな気持ちになれる存在。
政略結婚すると決めてからは、一緒に過ごせた思い出を大事にしようと、淡い憧憬を胸の奥にしまい込んだ。
だけど見送りに来てくれなかったことで、寂しさが鉛のように心に重く残り、そんな風に感じているのを自分自身でも戸惑っていた。
(こんなにも三成くんが気になるなんて…)
そうして過ごしていた中で、秀吉のはたらきかけで許された数日間の里帰り。