第2章 胸キュン【赤砂のサソリ】
彼の手からすり鉢を奪い取れば、「あ゛?何すんだよ」とキレ気味な様子に、私は知ったこっちゃないと彼との距離を縮める。
様子のおかしい私に「ナナミ?」と不可解な面持ちを浮かべる。とうとう壁に背をつけたサソリは、この謎に追い詰められた状況に不機嫌そうに舌打ちをする。
よしチャンスだと両サイドの壁へ手を伸ばす。バンッ!静かな部屋に響き渡る音にサソリは肩を震わした
あれなんかめっちゃ顔近い、ちょっと恥ずかしいんだけど??自分の行動に後悔しそうになるが、ここまでやったら、もう最後まで”お手本”というのをやってみせなければ。
「……」
「……」
あーどうしよう。何か言わないと。珍しく大人しい様子のサソリに、まさかとんでもない顔ををしているのではないかと恐る恐る表情を伺えば、見たことのないような動揺した目つきをしていた。
こ、この顔が胸キュン!?と思ったが多分違う。至近距離で視線が交わっているこの状況に不覚にも照れる。こっちが胸キュンしそうなんだが。
「…く、傀儡ばかりに構っていないで、その…私のことも、構ってよ…」
耳元で囁くように。
どうしようもない恥ずかしさに目をそらす。女子たちの言っていたことを思い出して、実行してみたものの、これはうまく言っているのだろうか。この沈黙が怖い。何言ってんだとかでもいいから何か言って欲しい。何も言って来ないのが余計怖いんだって。
ちらっと視線をやれば、サソリは驚いたように目を見開いていた。が、すぐに形の良い唇がにやりと気味悪く笑う。