第2章 胸キュン【赤砂のサソリ】
ある日のことだ。珍しくサソリから家に呼ばれたと思えば、チヨ婆が長期任務で不在なため夕飯を作って欲しいというなんとも自己中の頼み。
まぁ幼馴染というのもあって昔からサソリの家にお邪魔することが多い。自己中とか言いながら、こんな風に自分を頼ってくれることが嬉しかったりもするから私も私だ。
適当にご飯の支度を済ませ、そろそろサソリを呼ぼうと彼の部屋のドアをノックする。返事のないサソリに「入るよ」と一言。無言ってことはいいよって意味だよね?
ドアを開けば、案の定傀儡のパーツをいじっているサソリの後ろ姿が視界に入った。どうやら毒の仕込みをしているらしい。
こうしてサソリの集中している姿を見るのは久しぶりかもしれない。彼のベッドに腰を落とし、じーっと作業を見つめていると、集中できないと文句を言われた。
「ご飯できたよ」
「……」
「サソリ!」
「っるせぇ」
殴っていいよね!???殴れないけど。
集中しているサソリを邪魔すると理不尽な文句を言われることは昔から知っていたけど、ちょっとは妥協しろよ!って文句を言いたい。言えないけど。
「その作業すぐ終わるの?」
「ああ」
「じゃあ私先食べてるよ」
「ああ」
「私恋人できたんだ」
「ああ」
…こいつ。マジで聞いてないな。
思い出すのは女子との会話。今なのかもしれない。その胸キュンシチュエーションというのは。
こっちに目もくれず、ひたすら危なそうな色をしている液体を調合している今こそ、胸キュンシチュエーションを行う瞬間。異例なのは承知済みだ。