第2章 胸キュン【赤砂のサソリ】
「…ほぉ」
「…っ!」
なんだなんだその顔は。嫌な予感がしてたまらない。やっぱりサソリを胸キュンさせるとか無理無理。誰だよできるとか思ったやつ…!…私だけど!
逃げようと壁から手を離すが、その腕をガシッと掴まれる。変な汗が背中を伝う。
「私にも構って欲しい…だっけか?」
「ち、ちがっ…」
「ひおり」
名前を呼ばれた瞬間、視界がぐらっと変わる。なぜか目の前には私を楽しそうに見下ろしているサソリ。そして、逃さんとばかりに顔の横には彼の両手が置かれている。
これはまさか、壁ドンならぬ床ドンなのでは…。
状況を把握した途端、顔の中心に熱が集まる。こいつわかってやっているのか、そうなのか!?そんな私の姿に、サソリはクツクツと笑ってみせた。
近づいてくる彼の顔に、もうどうして良いのかわからず目をぎゅっと瞑る。
今から存分と構ってやるよ
そっと耳元で囁かれたその言葉に、とうとう目眩がしてきた。これが女子たちの言っていた胸キュンかと思ったが、そういう次元ではない気がしてきた。
サソリが視界いっぱいに映る。鳶色の瞳に目を奪われ、動きがおろそかになれば、お前のことしか見ていないと片方の手で私の頭部を支える。
病気なのではないかと思うほど鼓動が早くなるのを感じた。サソリは…サソリはどんな鼓動を鳴らしているのだろうか。
覆いかぶさっている彼の胸にそっと手を当てれば、ドクンドクンと私と同じかそれ以上に高鳴る心音。
「…!サソリ」
「……」
驚いてサソリと目を合わせば、不意打ちを突かれたような、サソリらしくない間抜けな表情を浮かべている。
「うるせぇなんもいうな」そうぶっきらぼうに言い放つサソリの頰がほんのり赤らんでいる。そんな姿に胸がキュンと鳴った。