第2章 優しい約束、哀しい約束
「うむ!今日は宇髄と薫さんと言う女性と海へ行く約束をしていてな!」
海と聞いて千寿郎の顔が明るくなった
先日、海に関する図鑑を一緒に見たばかりだったな
「兄上!!」
「なんだ?土産なら買ってくるつもりだ!何がよいだろうか?」
「その女性とはどのような方なのですが?ご友人ですか?恋仲なのですか?」
海に反応したとばかり思っていたが、そうではないようだ
薫さんが気になる千寿郎は目を輝かせて俺に詰め寄った
「薫さんとはそのような関係ではないぞ!そうだな…友人であり妹のような存在だろうか?」
「本当に、それだけですか?」
「それだけとは?」
「兄上が嬉しそうなのは薫さんに会えるからではないですか?あの着物を見る兄上も嬉しそうでした。その…大切に想われているのではないかと」
昨日から落ち着かないのは嬉しいからか?
確かに薫さんに会えることは嬉しいことだ
そのひとときを大切にしたいとも思う
「そうだな。薫さんとの時間は大切にしたいと思っている。しかしそれは薫さんに限ったことではないぞ。千寿郎と過ごす時間もそうだ。」
千寿郎は目をぱちくりさせ俺を見た
何かおかしな事を言ったであろうか…?
「兄上らしいですね!今日は楽しんで来て下さい。お土産は貝殻が欲しいです。」
千寿郎は再び笑顔を見せた
周りの変化に敏感な千寿郎だ
同じ齢の者達に比べたら、随分と大人びているのかもしれない
そう成らざるを得なかったのだろう
そんな千寿郎が貝殻が欲しいと目を輝かせた
「貝殻か!美しい物を見つけてこよう。」
「はい!!楽しみにしています!」
まだ幼さの残る顔を綻ばせて喜ぶ千寿郎を見ると安堵する
父上が閉じ籠るようになってしまってから、長い月日が経った
千寿郎は母上との記憶もほとんどないだろう
家族での楽しい思い出というものが千寿郎にはないに等しい
そんな千寿郎の心の拠り所でありたいと思う
それは薫さんにも言えることだ
千寿郎には兄である俺がいる
しかし、薫さんにはいない
ならば俺が拠り所になればよい