第2章 優しい約束、哀しい約束
千寿郎と俺はよく似ている
髪の色、髪型、目の色
それだけを見れば瓜二つと言える
しかし、俺は千寿郎のように穏やかな雰囲気は持っていない
周りの者を自然と笑顔にさせ、柔らかい雰囲気にできる千寿郎は
俺の誇りであり自慢だ
何より気遣いができる
その者が何を必要としているのか、瞬時に判断することができる
穏やかな見た目ではあるが、頭の回転は早い
剣の才には恵まれなかったかもしれないが、千寿郎には無限の可能性が秘められている
「どうされましたか?兄上」
「いや!千寿郎の気遣いに感心していたところだ。して、兄が嬉しそうだと言ったな?」
「はい!鍛錬にも力が入っているようでしたし、何より兄上の笑顔が多く見られました」
屈託のない笑顔を見せる千寿郎と薫さんが重なった
この広い屋敷で、俺のいない時間をどのように過ごしているのだろうか?
父上は、締め切った部屋から滅多に出てこない
恐らく、千寿郎は1人で食事をし1人で眠りにつく
それでも千寿郎が気にかけるのは常に俺や父上だ
薫さんもそうだろう
あの広い屋敷で1人過ごしている
1人で食事をし、1人で眠る
しかし薫さんには、心配する家族すらいない
……俺は、薫さんが千寿郎と似た境遇だから気になっているのか?
淋しい想いをしていないか、食事は摂れているだろうか
どれも千寿郎への心配と同じではないか
そうか、薫さんに会うたびに騒ぎ出す感情は千寿郎と重なるからだったのか
「兄上…?ど、どうかされましたか?」
たった今までにこやかだった千寿郎が、眉を下げ心配そうに俺を覗き込んでいた
「ここに、皺が寄っています。今日はお出かけになる日ではなかったですか?」
自分の眉間を指さしながら、そう問う千寿郎は百面相をする俺を不安げに見つめていた
「考え事をしていた!千寿郎、兄は出掛けることを伝え忘れていたように思うが…」
「はい、ですが兄上のお部屋に衣桁に着物が掛けられているのでお出かけになるのかと」
千寿郎の目線の先を辿れば、風に揺れる着物があった
隊服ばかりの日常だ
着物を着るとはよっぽどの予定がない限りあり得ない
あれは今日の為に出したおいたもの
薫さんはどのような姿で海は行くのだろうか
そんなことを考えながら選んだ事を思い出した