第2章 優しい約束、哀しい約束
ただ、こうしちゃいられねぇ
煉獄の足音がついに玄関の前で止まったからだ
俺は煉獄が開けるより先に、戸を開けた
「おう!煉獄。時間ぴったりじゃねぇか」
こいつは聡い奴だ
疎そうに見えて、周りの奴の機微に良く気づく
気が抜けねぇ
「宇髄!君は早かったのだな!薫さんは支度中か?」
「あぁ。もうすぐ終わるんじゃねぇか?」
平静を装ったつもりだが、煉獄はじっと俺を見る
「なんだよ?」
「うむ…少し顔色が悪いようだが?腹の具合でも悪いのか?」
いやいや、煉獄じゃねぇんだからそんなに腹壊すような飯の食い方してねぇって
そう喉まで出かかって飲み込んだ
今煉獄と顔突き合わしても、ろくな事言えねぇしな
「あー…そんなとこだな。厠でも行ってくるわ。上がって待ってりゃ薫もその内来るだろ」
「そうか!そうさせて貰おう。薫さん!上がらせてもらうぞ!」
煉獄はバカでかい声で律儀に挨拶して中へ入って行った
俺は逃げるように外へ行くと、おかしくなった頭を風に当てる
ぬるい風じゃあ、ちっとも冷静になれねぇ
「はぁ…俺はガキか…」
これじゃ欲しいモノが我慢できねぇ子どもと同じだ
わかっちゃいるが、あいつを目の前にすると抑えが効かねぇ
いつかやらかすんじゃねぇかと自分にヒヤヒヤする
俺の苦悩は当分続きそうだ
————今日は約束の日だ
宇髄とは薫さんの屋敷で待ち合わせだ
朝の鍛錬にも自然と力が入る
今日はどんな顔を見せてくれるのだろう
どんな事を話してくれるのだろう
よく晴れた空を見れば、俺を太陽だと言った言葉を思い出す
俺は君を照らす太陽になれるだろうか?
日陰を歩んできた君に、ひだまりの中を歩ませてやれるだろうか?
空に向けた顔を元に戻せば、額から一筋の汗が流れ落ちた
もう夏はそこまできている
巡る季節を1人ではなく、楽しい思い出と共に過ごさせたい
その為の一日目が今日と言うことだ
「兄上!冷たい手拭いをお持ちしました」
「千寿郎ありがとう。冷たくて気持ちよいな!」
よく冷えた手拭いは、俺の火照った気を鎮めてくれた
鬼殺以外のことに気を取られるとは、俺はどうしたものか…
「兄上…楽しそうですね。何かよい事がありましたか?」