第2章 優しい約束、哀しい約束
宇髄の目を見ていれば、薫さんに特別な感情を持っていることはわかった
おそらく、そう簡単に気付けない変化だ
当の薫さんにすらわからない
宇髄はよくできた男だ
信頼に値する
だが…
俺も気付いてしまったんだ
薫さんの為なら何でもしてやりたいと思う己の気持ちにだ
それに気付いたのは、薫さんがあの屋敷で頬を叩かれた時だ
今まで人には感じたことのない怒りが込み上げた
彼女をこんな世界に引きづりこんだ輩がいる
弱みに漬け込み、体を利用した
心まで支配しようとしたのだ
人の醜さが鬼になるなら、俺も危ういと思ったくらいだ
俺は、それほどに怒りを覚えた
薫さんは、幼い子のように声を上げて泣いた
この小さな体から出ているとは思えないくらいの泣き声と涙を流して
必死で1人で生きてきた彼女への報いとしては、あまりにも非情ではないか
ならば俺が…
幸せへと導いてやりたい
泣き疲れて寝てしまった薫さんを布団に寝かせると、夢さえも苦しみから解放してくれないらしく、顔をしかめては静かに涙を流した
穏やかな寝顔に変わったのは、夜が明ける少し前のことだった
本当は目覚めるまでいたやりたい
だが昂ったまま俺はここにいるのはよくないと判断した
薫さんがその後屋敷を飛び出して俺を探している姿を見た時は、屋根から飛び降りそうになったものだ
宇髄は薫さんは危ういと言った
それには俺も同感だ
いつでも消えてしまいそうな儚さと、例え偽物でも愛情を見せられれば流されてしまう危うさだ
あの夜、薫出会ったのが偶然でないなら
薫さんを導く役割は俺なのだ
そう思うくらいには、既に彼女に絆されているわけだ
こんな俺の気持ちも知らず、薫さんは紫陽花を眺めている
宇髄は紫陽花に毒がある事を知っているかと訊いた
それが俺達を惑わす毒になるかもしれないと
仮にそうなったとして…
毒に弱い方が淘汰される
それだけの事だ
彼女は毒で身を守ってきたのだろう
それがよいか悪いかは別として
そうするしかなかったのだ