第2章 優しい約束、哀しい約束
薫の声で薫の口から聴く名は耳触りがいい
名前が特別なものになる
薫のことを深く知りたいと思っちまった俺は
木から飛び降りて薫の前にいた
約束していた卵焼きも持たずに薫の前に来ちまった
約束のない俺たちが会うのに見合う理由
そんなもんねぇな
会いたかった
それしかねぇ
だが、俺はこいつの何を知ってる?
何て声かけてやりゃいい?
わかったようなフリをするのは簡単だ
”辛かったな、可哀想に”
口先だけの言葉を並べていい子いい子してやればいい
薫に必要なことはそんなことじゃねぇ
ただ受け入れてやることだ
目を見て話してやることだ
話題は何だっていい
楽しけりゃ
なんなら見たことのねぇ景色を見せてやるか
「なぁ、薫。少し時間あるか?」
「ありますけど、天元さん私なんかに構ってていいんですか?それともそれとお仕事?」
俺の問いに悲しそうな顔をひゅっと引っ込めて、作り笑いをしてくる
一瞬見せた悲しそうな顔は、俺の誘いがなけりゃ1人だと思ったからだろう
薫は直ぐに目を逸らしたがる
恥ずかしいからじゃねぇ、目を合わせてもらえねぇのが怖いからだろう
俺はあの野郎とは違ぇ
「お前なぁ。」
思わずため息と共に出た情けねぇ声
作り笑いに対してじゃねぇ、こいつがどの男も同じだ
そう思ってるような気がしたからだ
距離をとろうとしているのがバレバレだ
「鬼もいねぇのに、仕事でわざわざ女1人待つかよ。これは俺の個人的な用事だ。特別な」
明らかに、”特別な”に反応した薫
もう一押ししてみるか
世の中悪いもんばっかじゃねぇ
それを知ってもらいたかったんだ
薫は俺に似ている
何もかも、信じられずにいる
自分さえ好きになれねぇ
俺が変われたのは認めてくれたお館様、仲間たちのおかげだ
薫には過去に囚われて先に進めねぇ弱さを感じる
俺はほっとけねぇんだ
過去の自分をみてるみてぇで