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強くて、脆くて、可愛くて【東リべ夢】〘佐野万次郎夢〙

第1章 最強の男




嬉しそうな声で言った佐野君の髪に、ドライヤーの風を当てる。

見た目以上に柔らかい髪を指で梳かしながら、ゆっくり乾かしていく。

髪に触れているだけなのに、妙に心臓が早く動いている気がする。

日に日に彼を意識してしまう自分がいて。

弟達の世話や父の手伝いをして、恋愛している自分なんて想像つかないし、男の子を意識した事もない。

何だかんだ考えながら、乾かし終わって髪を櫛で梳かす。

ソファーの背もたれに頭を置いて上を向く佐野君と目が合い、ドキリとする。

手が優しく握られ、指が絡まる。

「なぁ……は、好きな奴いんの?」

「へ? な、何で急に……」

「いんの? いねぇの?」

彼の揺るがない真っ直ぐな目に見つめられると、動けなくなる。

目が、離せない。

「好きな人は……いないよ」

下ろしている私の髪を、もう片方の指に絡め取る間も、佐野君の視線は私をずっと見つめている。

「ならさぁ、俺と……」

顔が熱くなって、心臓が、うるさい。

けれど、佐野君の言葉の続きは、私の耳に届かない。

スマホが鳴る音が、静かなリビングに響く。

「も、もしもしっ……」

耳を当てた向こうから、父の声がする。

帰宅する報告を聞いた後、スマホを切って立ち上がった佐野君を見る。

「俺、帰るわ。ごちそーさまでした」

「あの、佐野君っ……」

「ん? 何?」

笑顔で振り向く佐野君の顔を見ると、先程の言葉の続きを聞く勇気は出なくて。

「あ、えっと……ありがとう」

「こちらこそ」

白い歯を見せてニカッと笑う佐野君を玄関まで送る。外までと思ったのに、危ないからと止められてしまった。

「じゃ、おやすみー。また学校でなー」

「うん、おやすみなさい」

佐野君が出て行った扉を見つめたまま、遠ざかるバイクの音を聞いていた。

触れられた指がずっと熱く痺れていて、鼓動は早いままだ。

彼にだけ反応する心臓、熱くなる体。

これは、恋だ。

恋愛経験も、人を好きになった事もないけれど、さすがに自分の極端な変化には気づく。

けれど、その気持ちを口にする勇気はまだ出せないだろう。

この気持ちを認めるのが、今の私に出来る精一杯だ。

私は、佐野君が好きなんだ。
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