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強くて、脆くて、可愛くて【東リべ夢】〘佐野万次郎夢〙

第1章 最強の男




明らかに楽しんでいる男性達に追われながら、必死に走りながらふと前を見る。

誰かが、人が、飛んでいる。

「わふっ……っ!」

「おっと、大丈夫か?」

またぶつかった。次は、先程の男性達よりもっと大きな、独特な髪型の人にぶつかった。

先程の男性達より、明らかに迫力が違う。

「はい……あ、あのっ、人がっ……」

「あぁ、アイツはいつもアレだから、大丈夫だ」

振り返ると、先程飛んでいた人と何人かの男性達が殴り合いを始めていた。

「喧嘩……止めなくて、いいんでしょうか?」

「あー、いいよ別に。たまには暴れさせねぇと、俺等に当たられちゃたまんねぇしな」

「……あれ? 三ツ谷君?」

「今気づいたのかよ」

苦笑しているのは、同じクラスの三ツ谷隆君だ。

手芸部部長の三ツ谷君には、たまに部室を借りたりしているから、結構お世話になっている。

「お前、今日は遅いんだな。弟達はいいのかよ」

「あはは……よくは、ないかな……」

私は苦笑して、三ツ谷君に事情を話していると、三ツ谷君が私の後ろに目を向けた。

「お、帰って来たか」

後ろを振り返ると、先程一番に飛んで行った人がこちらに歩いて来ていた。

「絡まれてたんだろ? 大丈夫だった?」

想像していた以上の、可愛い満面の笑みで優しく聞かれ、私は戸惑いながらも、彼に向き合った。

「あの、はい……ありがとうございましたっ!」

私は頭をしっかり下げて、彼を改めて見る。そして、ポケットを探ってハンカチを取り出した。

「ん? 何? 何か付いてる?」

「血が……」

「ハンカチ汚れるよ?」

私がハンカチで頬を拭くのを、特に嫌がる事もしない。

近づいて思ったけど、凄く優しく笑う人だ。

そんな中、スマホが震えるのを感じてハッとする。

「もしもし、うん、ごめんねっ! すぐ帰るから、うん、もう少し待っててくれる?」

下の弟の泣きそうな声が耳に届くと、また寂しい思いをさせてしまったと、自分自身のした選択を後悔した。

少し遠回りするだけだったのに。

スマホをしまって、電話の様子を見ていた三ツ谷君達に改めて向き直る。

「本当にありがとうございました。あの、私、急いで帰らなきゃいけないのでっ……」

「大丈夫か? 送ってくぜ?」

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