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999本の薔薇〈進撃の巨人〉

第8章 Rose



「今行っても、何も咲いてねぇだろ」

「それでもいいの」


 リヴァイはローズを横抱きにして静かに立ち上がった。
 ローズの体は驚くほど軽い。母の体も、同じように軽かった。


「最期に、あの花畑にあなたといたいから」


 それ以上、リヴァイは何も言わなかった。
 ローズが望むのならなんでも叶えてやりたかった。そのためならばなんだってしようと思えた。

 リヴァイは家を出た。ローズは目を閉じる。きっと、目を開けているのも辛いのだろう。

 彼女の心臓を思う。
 そこに芽生えた花を思う。
 花は、ローズの栄養を吸って育っている。ローズが弱れば弱るほど、花は逞しく育つ。


「花は、なんにもわるくないわ」


 リヴァイの心を読んだようにローズは言った。


「こうなることは決まっていた。あたしの中にあるこの花は、こうすることでしか育てない。みんな、生きることにひっしなの」


 地下街の人々は黙ってリヴァイたちを見ていた。
 いつもは耳を塞ぎたくなるほど騒がしいはずなのに、今は、水を打ったように静かだ。

 耳鳴りがする。
 リヴァイはローズの声以外、聞くことをやめていた。ローズの言葉だけがあればそれでいい。それだけでいい。


 もうすぐ、聞けなくなってしまうのだから。



 
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