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999本の薔薇〈進撃の巨人〉

第1章 Forget me not



 ウォール・シーナの地下にある都市、地下街。
 地上では生きていけない者のたまり場。
 死や犯罪の蔓延る街。

 そこをローズは走っていた。

 
「待ちやがれっ!!」

「くそ、足はえぇ……!」


 背後から男たちの怒鳴り声が聞こえてくる。待てと言われても待つ人間がどこにいるというのだ。
 ローズは息を弾ませ、ひたすらに足を動かした。

 母が死に、ローズは地下街の人さらいに売られてしまった。このままどこぞの下品な男に買われるのかと絶望していたが、一瞬の隙をついて逃げ出したのだ。
 だが当然追いかけられてしまう。


「だれかっ、だれか……!」


 髪を振り乱し、辺りを見る。
 地下街の地理なんて知らない。このままでは捕まるのも時間の問題だ。それだけは絶対に嫌だ。


「たすけて……!」


 大きく息を吸い込み、視線が上へのぼる。
 かすかに開いたドアを見つけた。明かりはついていない。空き家だ。あそこに少しの間でいい、隠れなければっ!

 ローズは後ろを振り返らず、がむしゃらにドアへの階段を駆け上がった。
 ほとんど体当たりでドアを押し開ける。

 
「きゃあっ!」


 ドアの先に、1人の男がいた。
 どこかに出かけようとしていたのか、ドアを開けようとしたところにローズが突撃してしまったらしい。
 無事に正面衝突をかますが、小柄な男は体をまったく動かさずローズを受け止めた。


「た、たすけてっ!!」


 ぶつかったことや家に飛び込んできたことを謝罪している暇などなかった。
 ローズは半狂乱で男に叫んだ。


「どこに逃げやがった!?」

「その階段をあがってるのを見たぞ!!」

「ひ、人さらいに追われてるの! お願い、助けて!」


 外からは怒号が響く。
 男は感情の読めない三白眼でローズを見下ろしていたが、やがてローズの体を押しのけた。乱暴に部屋のひとつに押しこまれる。


「物音を出すな」


 男は端的にそう言って、ドアを閉めた。


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