第3章 Sun flower
驚いたことにローズには接客の才能があったらしい。
笑顔を絶やさず、しかし迷惑な客には毅然とした態度を示す。店での業務内容も瞬く間に覚え、いつしかローズは酒場の輪の中心にいた。
「ローズちゃ〜ん! 注文お願い!」
店内で一際大きな声で話していた客が手を挙げる。
書き終えた注文表を店主に渡して、エプロンで手を拭きながら向かう。その客は最近よくこの店に訪れていた。
羽振りはいいが、酔っ払うと面倒臭い、と言うのがローズの見解だ。
しかし笑顔を忘れてはいけない。程よく酔わせて金を落とすだけ落とさせるんだ、と店主からよく言われたからだ。
「お待たせしました〜」
いつもよりいくつか声のトーンを上げてペンと紙を構える。
あれとこれと、と唾を飛ばしながら注文されていく酒とつまみの名前を書き留めていく。
(リヴァイだったら、こんな客はすぐに追い出しちゃうわね)
ぴぴぴっ、と白い粒が飛んでくる。それは当然目の前の客の唾で。
最初は嫌だったが一ヶ月も働くと慣れるものだ。
脳裏に恐ろしいくらい険しい顔をしているリヴァイが浮かんで、頬が緩む。男はそれをめざとく見つけた。
「あ、ローズちゃん、今べつの男のこと考えたろ?」
「えっ」
「え! ローズさん、好きな人とかいるんすか!?」
男の同僚らしい青年が興味津々、と身を乗り出す。好奇心に満ちた青年とは対照的に、唾を飛ばしていた男はスッと目を細めた。
ローズは決してこの男のものになった覚えはないのだが、彼はローズのことを自分の女だと思っている節がある。全く面倒なことだ。ローズはただ、みんなと同じように接客していただけなのに。
ローズは心の中でため息をついて、笑顔は崩さず「そんなことありませんよ」と流した。
「いーや、嘘だね」
だがここで引き下がらないのが面倒な酔っ払いだ。