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二人の航海者

第4章 春の嵐


龍水がハッ!と気が付いた様に蒼音を見上げる。
「なら契約だ!!契約!!もう一度契約結婚だ!貴様欲しいものはあるか?何でも言え!!」 
「無いね。知ってるだろう?私はとっくに歌姫としての地位を確立済みだ。龍水君、君と違い私は無欲でね。別にこのままのんびり新世界ライフやってもいいくらいなんだぞ?」

スパーン!と斬られた龍水は、契約結婚すら許されない事に震えつつ叫んだ。 

「ッッ!なら自力だ!!自力で貴様の心を射止めてみせる!」
「へえ?面白い事を言うじゃないか、龍水君。まあさっき言った条件をクリアしたまえ。そうすれば」
バサァ!!と手元に用意した紙を出す。

「…………!!こ、これは…まさか貴様…!?」
「この婚約届けにサインしてやろう!!ちなみにこれは君がミッション達成した時に正式に渡そう」
龍水が受け取る手前でひゅん、と手元に仕舞う蒼音。逆光で龍水には見えないだろうが、ただの関係ない書類である。 

「ぬーーん……」
あまりの役者ぶりに、周囲は唖然としている。

「……ッ!!本当に貴様、約束は守るな!?俺と結婚するな!!?」 
「案ずるな。私は、『軍師』として国政に関わる以上、約束は守る人間でね。そもそも旧世界での君との婚約話はちゃんと守っていただろう?だから安心したまえ。告白してきた人は門前払い。街中で絡まれたら龍水君の写真見せて『彼氏居ます』で撃退出来たからな」

ぴた。龍水が一瞬石化した。——彼氏。婚約者では無く、彼氏……??

「どうしたんだい龍水君。一緒に遊んだ時の写真を使ったんだが、無断使用が不味かったのかい?」
「そこでは無い!その様な事に俺を使うとは……!!貴様は実に悪女だな!?」 

龍水は赤面した顔を隠す様にそっぽを向いた。自身に好意を寄せているのに跳ね返した上、喜ばせる様な事を言うのだから完全に悪女だ。これには周囲も完全に同意してウンウンと頷いている。

「悪女、か。確かに『軍師』は人を駒みたいに動かす様なものだ。『美女』って言われるより『悪女』の方がしっくりくるね。そっちのが褒め言葉だ」

フフフ、と笑う蒼音。全くこの世界で最も美しい高嶺の花は…と龍水はニヤリと笑い。
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