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二人の航海者

第2章 世界の歌姫の小さな一歩


「また見合いですか。よくもまあ性懲りも無くクソ詰まらない話を持ってこれますね、お父様」

白銀の艶やかなウェーブがかった髪に、蒼い海を映し出した宝石の瞳。すっくと伸びた姿勢に、洗練された礼儀作法。見た目はまさに深窓の令嬢だったが、肝心の中身がぶっ飛んでいた。折角の美貌が台無しである。父親は娘を落ち着かせようと必死だ。

「落ち着け、蒼音。今回のお見合いは七海財閥からのご指名で」
「却下」
一言で斬り捨て静かに茶を啜る目の前の娘に、父親であり六道院家の現当主は頭を抱えた。

【六道院家】
戦国時代からの数百年の歴史を誇り、政治家や起業家などの数多の著名人を輩出。頭脳を武器にした人材と人脈で力を持つ、由緒正しき老舗の家。そして現当主の娘、蒼音は天才で絶世の美少女だ。祖先の天才軍師の生まれ変わりと呼ばれる程に頭脳明晰なのだ。十歳にして、もう高校の勉強を学習中。

家系出身の経営者達の事業に顔を突っこみ、事業改善。利益を出し、政治家にもアドバイスを請われる。学校はほぼ行かないが音楽は好きで、そこだけ行ってはいた。ヤケになり学問を何でもやらせたが、天才過ぎて話にならない位直ぐに履修し終えてしまう。それを実践に移し、小遣い稼ぎをし始めた。具体的には先程述べた様な、事業への口出しの見返りだが。

歌が好きで勝手に道具を集めるので、それらを禁じては捨てている。ここまで頭が良いのに、他に使うのは勿体ない。お小遣いは月に千円。それでは足りないと暴挙に出るのだ。その為縁談話を組み、時間を削っている。願わくば彼女を惚れさせマトモにさせる良家の息子と、等と思っているが上手くいかない。

蒼音は相手を調べ尽くし、嫌われる女を演じる。これまでの見合い話は全て向こうから断られた。縁談を重ねるに連れどんどん演技力は増し、如何にも深窓の令嬢という雰囲気を身内には醸すので本当に才能の無駄遣いである。だが今度の話は本当に違うのだ。父親は蒼音に向き合い相手の顔写真を出す。殺る気でやらねばこっちの精神が殺られる。
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