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船上の医師

第1章 【Prologue】船医との出会い


「ねえ、君は何者?私の事雇うとか言うし、座ってた席からしてもしかして凄く有名なお家の子かな」
「俺か?俺は七海龍水!七海財閥の御曹司だ。貴様の名はなんだ」
「ああ、海運業の。私は神原雪乃」
 さして七海財閥の名前にも驚かないあたり、メンタル面が太いのは龍水の見立て通りだ。雪乃、と呼び捨てにして龍水が尋ねる。
 
「貴様、俺の船医になってくれないか。帆船航海に出る為にも貴様が欲しい!」
「帆船、って……あの昔の船の?」
 いいよ、とは即答できない雪乃の反応は尤もであるが、龍水は構わず続けた。

「船上では船医は基本一人だ。風邪を引いた時だろうと、怪我をした時だろうと、長期航海で疲れた時でも全てを診る。内科に外科に精神科……幅広い知識が必要だ。船によっては語学力も欠かせない。だがな、」
 龍水はそこでセリフを区切った。ビッと女医を指さして高らかに宣言する。

「神原雪乃。外国で磨かれたその腕は魅力的だ。俺は貴様が欲しい!」
「……気持ちは嬉しいよ。でもごめんね、その申し出には応えられない。そもそも私は七海財閥には嫌われてるんだ」
「な……!?どういう事だ!」
 じゃ、と手を振って去りゆく女医。先に入国審査を終えて行ってしまう。七海財閥に嫌われた医者。フランソワ、と龍水は執事に声をかけた。

「俺はあの医者が欲しい。絶対にだ!」
「はい、龍水様」
 こうして龍水は、船医候補の女性と出会った。これが自身の運命を大きく変える出逢いになるとまでは思いもしないまま。

そして一方の船医候補の女性はというと——
「……龍水、か。見間違いかと思ったけど、名前確認して良かった。薄々何処か違うとは感じてたけど。やっぱりここは別世界なんだ」
女子トイレにて、一人鏡越しに己の姿を見ていた。そう、この医師は普通では無い。腕があるとか若いのに優秀だとか、そういう事では無い。

「はあ。転生だよね、これ」
どうしよっかな、と囁いた声には、やや困った感じと。少しだけ、楽しむような声色が混ざっていた。
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