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船上の医師

第1章 【Prologue】船医との出会い


「龍水。貴様、本当に帆船を作らせるとはな」
「叔父上!はっはーー、言ったろう?俺は欲しいものは叶える!我慢なんぞとは程遠い存在だからな」

 そう高らかに宣言する甥に、七海財閥トップであり龍水の叔父は苦汁を飲んだ顔をした。龍水の欲しがりに愛想を尽かして、お小遣いを桁単位で減らしたというのにも関わらず、この無駄に有能な甥っ子——七海龍水は金を稼ぐ術を見つけてきては豪遊する。誰も彼を止められないのだ。ふん、と息を吐いて叔父は龍水をじろりと睨む。

「航海に出て海賊ごっこでもする気か?」
「ごっこでは無い!」

 帆船の船長として皆の命を預かり、航海する。そうおのが夢を語る龍水に、叔父は冷たい眼差しを注いだ。所詮は庶子、正当な血を継ぐ者ではないとはいえ、彼が船旅で不祥事を起こせばそれは《七海財閥の汚点》となる。それだけは避けたい。

「船医はどうするつもりだ」
 彼からすれば、抵抗のつもりだった。財閥トップから紡がれた唐突な問い掛けに、ん?と龍水は首を傾げる。再度叔父はセリフを繰り返す。
「馬鹿たれ、船医だ船医。船には必要な存在だろう?海上で怪我や病気になった人間の面倒を見るやつが必要だ。なんだ、そんな事も分からな……」
「フゥン、確かに船医は必ず必要だ。いや欲しい!はっはーー、教えてくれて助かるぞ叔父上!」

 そう言っては去っていく龍水に、やれやれと叔父は肩を落とした。まああんな若造が船長を務める船だ。そんなのの船医になぞなりたがる稀有な趣味の輩なぞ居ないだろう、とこの時は龍水のチカラを甘く見積もっていた。

 一方、龍水はと云うと。フランソワに頼んで、世界中の船医のデータを集めていた。内科や外科などの勤務経験が豊富で、船医としても申し分ない人間。そんな存在を資料を漁り探すものの、それは川の中でプラチナを探すのと同じような類いの行為。なかなかこれといった人材が見つからない。もっとも、叔父上はそれを期待した上で船医を探せと進めてきたのだろうが。

「当たるぜ俺のカンは?叔父上はろくな人材も見つけられないのなら、七海財閥の看板を担ぐものとして帆船航海に出るのは認めないと言うつもりなのだろう」
「そのようでございますね」
 一緒になって資料を集めてくれたフランソワが、龍水の発言を肯定する。フランソワは龍水にとっては数少ない、いや唯一の理解者と言っても差し支えなかった。
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