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記憶が亡くなる前に

第12章 命懸けの単独行動


トレーボルが振り返り小さな女の子の方を向いた。

「シュガー。こいつ、自分のことが分からないんだって。べへへ鼻出るわ。」

「汚い。消えて。」

シュガーと呼ばれた女の子はブドウが入ったカゴを抱えひとつ取っては口に運ぶ。
もぐもぐと何度が咀嚼してから、ごくんと飲み込むと指を舐めながらシオンを向いた。

「ねえ、なんでこんなとこにいるの?
どうやって入ってきたの?」

シオンは分からず俯いた。

「分からない…突然、頭が痛くなって気がついたらここに…」

「でも、あなた剣闘士とかじゃなさそうね?
観客?自分の席が分からなくなったの?」

「……そう、なのかな?」

自分のことが分からない以上、目の前の相手を頼るしかない状況にシオンは困惑していた。
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