第3章 沼地の井戸
「行っちまった……
しかし人間足が2人でこの雨の日になんで外に?
人間足といえば群れる生き物だろ弱いから」
「あ、ちょっと遠くに行く予定で……」
「ふうん?まあいいや。
登れないとは思うけど勝手に出て怪我しても知らないからな。
とにかくスカルの部屋はこっち、そこ落ち着かないだろ」
案内されるまま着いていくと井戸には横穴が開いており、
後から無理に開けたように思えた。
その先は狭い穴蔵が続き、蟻の巣のように枝分かれしていた。
「……全部、行き止まりだから迷子にはならないだろうけど
あんまりウロチョロするなよ」
穴の先を覗くニルダに目を細める。
彼女がぶんぶん首を振るとリザードマンは肩を竦めて再び歩みだす。
しばらく行くと簾(すだれ)のある穴の前で立ち止まる。
「ん」
「……ここ?」
恐る恐る中を覗き込むとおよそ死体の部屋とは思えない小綺麗な空間があった。
地面は穴蔵の通路とは違い踏み固められ、
住居スペースには磨かれた石が敷き詰められている。
「わあ、すごいちゃんとした部屋……です、ね?」
振り返ると既にリザードマンは居なかった。
音もしないなんて足の作りが違うのだろうか。
抱えたスライムがポチャ、と水音をたててニルダを見上げた。
見上げた、とはいえ顔がどこか傍目には分からないのだが。
「……ラキ、大丈夫かな」
一人になると自分が見捨てたような罪悪感が襲ってくる。
ため息をつくと中へと入り、石で出来た椅子に腰掛ける。
目を瞑ると遠くに雨の音がした。静かだ。
柔らかで涼しいゼリーのクッションを抱え、まぶたがとろけていく。
疲労と緊張、怪我のせいかニルダはいつしか眠りに落ちていた。