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月を抱く

第1章 未知の味


「ラキ、どうしたんだい?具合でも悪いのか?
ほら、暖かい血を飲みなさい。栄養がある」
「うん……」

そこはアンダーグラウンドの外れにある小さな村。
気だるそうに口に赤いグラスを運ぶ女の子がいた。
グラスを差し出したのは父のレグナ。
ラキはほとんど減らないグラスを口にしながらゆっくりと言葉を紡いだ。

「最近、変な夢を見るの。
血を、傷つけた人の頬から拭って舐めるの。
それで私は逃げて、川を見たら顔が……」
「顔が?」

「人間じゃなくなってる……」

「ははは!人の血を飲む事が差別って教えたからって
悪夢まで見るとは!お前は良い子だね」

笑われてラキは拗ねるどころかさらに俯いた。
本当の所、その血があまりに美味しかったとは言えない。
動物の血を飲む度"これじゃない"と喉が訴える。
あの、脂の乗った甘い忘れられない味じゃない。
飲んだこともないのに最近そればかりだ。

「大丈夫だ、落ち着きなさい。
そもそも私の血をイタズラで舐めた事があるラキなら分かるだろう?」

「美味しくないって?」
「そう、動物や調理された血液の方がずっと美味しい」

父は茶化すものの、それでちょっとした騒動になった。
私と父はまるで違う、価値観も見た目もだ。

「大丈夫」「うん」

父が笑うと私にはない鋭い牙が見えた。尖った耳だって。
私が口元に手をやると察したのか父が口を覗く、
あんぐりと口を開けて見せるが結果は分かっている。

「生えないねえ、
まあ最近はそういう奴も増えてるらしいから!」

「本当に?見たことないけど」
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