第2章 巣立ち
雨のおかげで森は火事にならずに済んでいるが、
ヒトガタに落ちた雨が霧のように広がり後には煙が立っている。
「(あっ)」
ヒトガタが立ち止まった。
先程のイタチの死骸が落ちたままだった。
ヒトガタはそれに手を伸ばしたが持った瞬間燃え上がり、
イタチはあっという間に消し炭になってしまった。
「オオオォォ!アアァ……!」
ヒトガタが怒りか悲しみか大きな咆哮を上げると
地面に頭や肩をぶつけ暴れだした。先程の揺れはこれだ!
自分達のいる木にもヒトガタがぶつかり激しく揺れる。
「キャっ!?」
「ニルダ……!」
ラキの手が空を切るのが見える。
きちんと登りきれていなかった私は地面に落ちた。
ヒトガタが顔を上げ、燃える泥が吸い込まれていくような穴がコチラに向く。
たぶん、あれは、そう、こちらを見ている。
「ひっ……ごめんなさい……」
「ヴア……!」「いやッ!」
しかしヒトガタが突き下ろした手は地面に食い込んだ。
先程までニルダがいた場所を見つめ首をかしげる。
あまり頭は良くなさそうだ。
助けてくれた自分を掴んでいる何かを見上げた。
「キャーッ!!!」
「ウワ、やめろ暴れるなって!」
骸骨だ!!!カタカタと歯が鳴るだけの肉のない顔から
無い筈の声がする!オバケ!?死体!?イヤ!!!
が、それも虚しく歩く骨に簡単に担ぎ上げられてしまった。
声に反応したヒトガタがコチラを向く。
「あああ!やばいやばい!」
骨が駆け出したはいいが、担がれた私は背後に顔を向けられ
灼熱のヒトガタと目があったままの鬼ごっこが始まった。
「イヤァァァ!!」
「うるさい!騒ぐと逃げらんないぞ!」
固い骨で尻を叩かれジタバタと暴れる。
ヒトガタは両手をつきドスンドスンと地響きを立てながら追ってくる。
「ニルダー!」
「……!もう1人居るのか!」
ヒトガタの後頭部に木の枝が当たる。
ヒトガタの意識が反れた。骸骨は止まる様子がない。
「あっ、ああっ、ラキが……!」
「あの子まで助けるなんて無理だ!しかも木の上じゃ逃げ場もない!」
私は強く意見を言えなかった。だって、私は助かりたかったから。
赤黒い塊が遠退いていく。
やがてそれは見えなくなり、森は再び静寂に包まれた───……