第2章 巣立ち
「わ、私……分かりません。
なんで私なの、ラキ……?」
「私、ピュアヒューマンしかいない場所を知ってる。
だからニルダ、君に必要な場所なんだと思う。
そして私もそこに行かなきゃならない」
ラキはハキハキと話すとニルダに向き直る。
ニルダは戸惑った様子だったが頷いた。
「君はラキに襲われたのに平気なのかい……?」
「……私を助けてくれたのもラキなんです。
私、ラキが見えて人間にやっと会えたって思って
子供たちが掘った罠に落ちたんです……。
それでラキが助けてくれて、小屋とか食べ物も」
「ラキ……まさか食欲が無かったのは」
「具合も本当に良くなかったよ」
ラキは目をそらす。
後からお腹がへって食べていたのではなく、
私が見ていない間に持ち出していたのだ。
「やっぱりお前は優しい良い子だ、ラキ……。
そうだ、これも返さないとな……」
レグナが首からかけていた木札を差し出す。
そこには掠れたこの世界にない文字が書かれていた。
「半分掠れてるけど、司祭様がいうには
その下にはラキって書かれているらしいんだ。
だから君はラキになったんだよ」
「……」
掠れた木札の文字は確かにラキと読めた。
きっと自分に所縁がある名前だろうと握りしめる。
しかしそれをすぐラキは差し出した。
「ん?」
「持っててパパ、私を忘れないように」
「あ……」
レグナが半泣きでそれを受けとると再び首にかけた。
確かめるように手のひらを胸におき、一つ頷く。
「絶対に忘れない。……忘れないけど、
でも今日すぐにお別れって訳じゃないだろう!?
旅の支度もあるしニルダは怪我してる!」
「……ここの小屋なら。村には近づかない事。
それが守れるなら……仕方ありませんね」
レグナの勢いにおされ、司祭がしぶしぶ了承する。
「よかった!
ラキ、旅立つ前にしっかり食べるんだよ!?
ニルダも!ピュアヒューマンは何を食べるのかな!?
ああ、こんなに細腕で本当に大丈夫だろうか……!」
司祭がレグナを引きずり小屋から出ていく。
ラキはニルダをちらりと見ると苦笑いをこぼした。
ニルダはぎこちなく肩をすくめると笑った。