第10章 遊郭後編
堕姫を取り巻く空気が変わった。
今までとは違う。
妓夫太郎の能力が堕姫に移ったのか、一撃一撃の重みが変わった。
名前は善逸、伊之助を背にし、大きく踏み出す。
堕姫の背後から頸を狙う。
「全部見えるわ!!アンタたちの動き!兄さんが起きたからね!」
『……っ、くそ!』
帯で攻撃を塞がれる。
次の瞬間には数本の帯が名前を襲う。
刀でそれを弾くと一歩仰け反る。
目線の端で伊之助と善逸が帯の攻撃に傷を負っているのが見えた。
一度に三人を相手にしてこの速さ。
やはり額の目は妓夫太郎のもので、今までの堕姫とは違うと考えた方がいい。
妓夫太郎の方には毒を負った宇髄と深い傷の炭治郎。
早く堕姫の頸を斬り、そちらへ行かなければいけないのに。
次々と攻撃が入り乱れる。
堕姫の帯と、妓夫太郎の鎌。
中々攻撃に移れない。
堕姫の帯が建物を崩す。
足場が一気に壊れ、全員が宙に舞う。
『善逸!!伊之助!!』
攻撃を避けるので精一杯の二人は名前に呼ばれ必死に振り向く。
「蚯蚓女に全然近づけねえ!!」
『俺が帯をやる!!』
名前は呼吸を使い帯を切り刻んでいく。
体に帯の攻撃がいつくも掠っているが気にしている場合ではない。
その時、宇髄の嫁の一人である雛鶴が無数の苦無が装填された忍び用具を使い妓夫太郎へ向かってそれを発射した。
それに当たった妓夫太郎は苦無に塗られていた藤の毒で動きが鈍る。
炭治郎と宇髄がその隙をついて妓夫太郎の頸に刀を突き立てる。
……今しかない
名前は帯が腕に、腹に、足に刺さるのを感じながら堕姫の頸に刀を振り下ろす。
しかし
『うぐっ……ぁああっ!』
「名前さん!?」
右手に走る激痛。
兄から受けた傷が広がる時に起こる激痛。
よりによって今。
右手の傷から大量の血が吹き出る。
攻撃の勢いが衰え、刀は宙を斬った。
「あははっ!!どうしたの!!殺しちゃうわよ!!」
堕姫が名前を攻撃するが、間一髪で善逸が霹靂一閃でそれを弾き、名前を支えた。
「大丈夫ですか名前さんっ!!」
『すまないっ……』
右手の痛みは続いている。
早く治ってくれ。
そんな名前の右手を見た善逸は名前を一歩後退させた。