第9章 遊郭前編
血が滴る。
『ッ……、』
名前は上弦の陸「妓夫太郎」の重い斬撃を受け、何とか受け流したものの、直前に赤い帯に足を引かれたために体勢を崩した。
そして、猛毒のある斬撃を右肩に受けてしまった。
傷口は浅いが、これから数分も持たずに毒が回り始め動けなくなるだろう。
とっさに受け身を取り鬼と距離を取る。
「ヒヒっ、受けたなぁ?ああ、浅いか?やっぱり柱は一撃じゃあ死なねぇなぁ」
妓夫太郎は残念そうに顔を引っ掻きながらゆっくりと名前の方を向く。
「でもまぁ、お前は数分で毒にやられて死ぬからなぁ、もう用はねぇなぁ」
『……』
肩の傷が熱い。
もう毒が回り込んでいる。
息を深く吸い、回復の呼吸で毒の回りを少しでも遅らせる。
そして、まだ動けるうちに……
『天の呼吸……弍ノ型、彼岸花ッ!』
周囲の音が消え、妓夫太郎の頭上から青い斬撃を振り下ろす。
きっと名前が動けなくなれば鬼は宇髄の方に向かうだろう。
先程から遠くの方で破壊音が聞こえていた。
向こうでも戦闘が始まっている。
複数いるであろう鬼の相手に上弦が居ては勝ち目は無いに等しい。
だからこそ、この鬼をここに一秒でも長く引き留めなければいけない。
「初めて聞く呼吸だなぁ、それ。何だぁ?」
妓夫太郎は首を傾げ、名前の攻撃を受け止める。
青い炎が妓夫太郎を鋭く攻撃するが、あと一歩のところで躱される。
『はァ……はぁ』
腕が痺れてきた。
息が上がる。
「まぁいいか。所詮こんなもんだもんなぁ」
妓夫太郎はそう呟くと鎌を再度構え直す。
名前も刀を構える。
すると妓夫太郎が一瞬名前から目線を外した。
名前はその一瞬を見逃さない。
『天の呼吸、参ノ型、天の干天!!』
右足で大きく踏み込み、そのまま妓夫太郎目掛けて青い炎を纏った突き技を繰り出す。
衝撃波が辺りに広がる。
「っぁー……なんだぁ、これは。無惨様の記憶かぁ?」
名前の突き技は妓夫太郎の手のひらと肩を貫通していたが、それよりも妓夫太郎は何かを気にしているようだった。
「なんでお前が無惨様の記憶にいるんだぁ?」
名前はその言葉に眉を細めた。